facing true south - 家を語ろうと思う。21世紀の家だ。

Project No.1 Second Room

この場所固有の最適な建築のかたち

 この住宅が建つのは金沢市金石という古くからの港町で、現在も当時の町並みが残り、市の伝統環境保存区域にも指定されている。その地域の風景をつくっているのは、日に焼けた杉の下見板張りの壁や黒瓦の屋根でできた住宅や倉庫、あるいは大きな屋根を持った神社仏閣などである。
ここでは木造であること、屋根に勾配があることがとても自然に感じられ、あえてそれを否定せず、設計の前提条件とした。

 一年を通じて雨が多く、また夏暑く、冬は雪が降り積もる厳しい気候に対し、大きな屋根を持つ木造の建物はシェルターとして優れている反面、曇りがちな冬の金沢では採光が難しく、多くの住宅では日中から照明を点すのが当たり前になっている。
夏涼しく冬暖かい快適なシェルターであることと、自然採光による明るい室内空間を共に実現させること、つまり太陽光や自然通風、季節による寒暖といった自然環境に対応した、この場所固有の最適な建築のかたちを考えてみたかった。

 冬に明るく暖かい室内空間を実現するには、建物内に多くの直射日光を導く必要がある。たとえば屋根にトップライトを設ければ、直射日光が射し込み、日中は明るく暖かい空間になるだろう。しかしトップライトは夏の冷房負荷を著しく増大させてしまうため、通年の快適性を考慮すれば採用が難しい。
そこでハイサイドライトを屋根に設けること考えた。真南向きのハイサイドライトは、冬にはトップライトと同等の直射日光を取得する一方、適切な長さの庇を設けることで夏には直射日光が室内に入るのを防ぐことができる。

 敷地形状と方位、周辺の建物との関係性を考慮し、勾配のある屋根に真南向きのハイサイドライトを設ける屋根形状のスタディを行った結果、片流れの大きな屋根に2つのハイサイドライトが斜めに切り込まれたような独特のかたちが出来上がった。
この形状をモデリングし、日射を解析することで、金沢の例年の最高気温が30度を超える8月24日までの直射日光が室内に入らないように確認を行いながら、最適と考えられる屋根形状と開口部の大きさを決定した。
この伝統的とは言えない木造の屋根を見事に組み上げたのが、伝統的な技術を持った地元の大工であったことは実に興味深かった。

 内部の空間に生まれた天井の高低を利用することで、夏は重力換気により室温を下げ、冬には天井付近に溜まった暖気をダクトファンによって循環させることで、屋根の下の大きな空間の温熱環境の平準化を図っている。
屋根を身近に感じることのできるこの住宅では、青い空と太陽、雲や雨、ときには雪といった刻々と移ろいゆく変化をより繊細に感じながら生活を営むことができるだろう。

ARCHITECT 建築家のご紹介
中永勇司 Nakae Yuji

1975年石川県金沢市生まれ。
94年金沢大学教育学部附属高等学校卒業、98年横浜国立大学工学部建設学科建築学コース卒業、2000年同大学大学院修士課程修了。
EDH遠藤設計室を経て、04年ナカエ・アーキテクツを設立。東京事務所に加え、10年金沢事務所、11年ソウル事務所を開設。
〈NEアパートメント〉でグッドデザイン賞、東京建築賞最優秀賞、AR awards(英国)を受賞。